インサイド・ヒーローズ

vol.1

自然・アート・テクノロジーが交差する「明日の風景」を求めて

杉山央の写真

©LESLIE KEE

新領域株式会社 CEO / Art+Tech Producer

杉山央 すぎやま おう

プロフィール

ご来場いただくみなさまへ

テーマ館では、「すべての生命はつながっている、植物を中心に」をコンセプトに、人間を含む地球上のあらゆる生命と植物との関係性を、最先端の研究をベースに楽しく体験していただけます。
そして、「体験」は、パビリオンの中だけで終わるものではありません。ここを訪れたことが、植物をより身近に感じ、日々の生活で小さな一歩を踏み出すきっかけになれば──そんな願いを込めて、テーマ館では種入りの紙「シードペーパー」をお渡しします。
ご自宅で芽吹いた植物の写真を共有いただくことで、それらは展示されるアートの一部となり、作品はみなさんと共に成長し続けます。このワクワクする共創体験を通して、横浜から新しい「明日の風景」を一緒につくりあげましょう。

シードペーパー

ART+TECH(アート・テック)プロデューサーとしての原点

―「ART+TECHプロデューサー」とはどのようなお仕事ですか。

杉山

一言で言えば、「その場所に行かなければ体験できない価値」を、アーティストやクリエイターと共につくる仕事です。ARTは自由な発想で新しい問いを投げかける表現。TECHはそれを具現化する最新技術。
この二つを掛け合わせることから「ART+TECHプロデューサー」と名乗っています。効率重視でどこも似た景色になりがちな現代だからこそ、遠くからでも「ここに行きたい」と思える目的地(デスティネーション)をつくりたい。空間そのものを作品化し、唯一無二の体験を生み出すことが私の役割です。

撮影:中川文作

―この仕事を目指したきっかけは何だったのでしょうか。

杉山

画家だった祖父の姿が原点です。画室で朝から晩まで楽しそうに筆を走らせる祖父を見て、「アーティストとはなんて素晴らしい仕事なんだ」と子ども心に憧れました。私自身も表現者を目指し、学生時代には街中で映像投影をするなどの街を舞台にした活動も行っていました。しかし、公共空間に勝手に手を加えることは許されません。「自由な表現」の難しさと、トップアーティストとの才能の差を痛感しました。
そんな折、ふと視点を変えてみたんです。「表現することに制約があるなら、そのルールを決める『空間』をつくる側に回ればいい。そうすれば、アーティストが存分に力を発揮できる巨大なキャンバスを用意できるはずだ」と。何もない更地を、新しい表現で埋め尽くす。そのワクワク感が、今の私のプロデューサーとしての原動力になっています。

撮影:中川文作

―これまでのご活動の中で、特に大きなターニングポイントとなったプロジェクトを教えてください。

杉山

私が常に挑戦してきたのは、「モニターの中(2次元)にあった表現を、いかに3次元の空間へと解き放つか」ということです。その流れの中で、大阪・関西万博での取り組みは非常に大きな経験でした。
映画監督の河瀨直美さんがプロデューサーを務めたシグネチャーパビリオン「いのちのあかし」で、私は計画統括ディレクターとして並走しました。万博というと、展示で答えを提示する場だと思われがちですが、私たちのパビリオンでは展示物を並べるのではなく、映画館のような空間で、スクリーン越しに「会場にいる一人」と「世界のどこかにいる一人」が、初めて出会い、10分間だけ対話をする。リアルタイムに繰り広げられるのは、編集不可能なドキュメンタリーです。最初は緊張している二人が、言葉を交わす中で少しずつ心を開いていく。その空気の変化を、観客も話者もスタッフも、固唾を呑みながら空間全体で共有する体験です。
会期中、1,500回以上このプログラムを実施しましたが、多くの方が涙を流されました。人は「本物の人生」や「本物の感情」に触れた瞬間に、より深く心を動かされる。そのことを、大阪・関西万博という舞台で改めて実感しました。

大阪・関西万博「いのちのあかし」関連の写真

©LESLIE KEE

2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)への挑戦

GREEN×EXPO 2027では、どのような展示を目指していますか。

杉山

テーマ館の主題は「すべての生命はつながっている、植物を中心に」です。私たちは普段、人間中心で世界を捉えがちですが、本物の世界は、実は植物をはじめとする多くの生命に支えられて世界は成り立っています。そのつながりを、大阪・関西万博で確信した「本物が持つ力」と共に、今度は「植物」という主役を通じて体験として感じていただく。それが、持続可能な社会を考えるきっかけになればと願っています。
展示では、土の中の世界を体験できる空間や、映像技術によって植物の時間軸を目に見える形にする展示など、会場に来ていただくからこそ体験できるコンテンツを用意しています。 そして、今回はNHKグループの皆さんと共に、テレビ(平面)の世界を空間に解き放つことに挑戦しました。映像と空間が融合して生まれる圧倒的な体験価値を、ぜひ会場で感じていただきたいですね。

テーマ館関連の写真

杉山央の写真

©LESLIE KEE

新領域株式会社 CEO / Art+Tech Producer

杉山央

すぎやま・おう 2027年横浜国際園芸博覧会 テーマ事業館・展示ディレクター、2025年大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのちのあかし」計画統括ディレクター、2026年TOKYO CREATIVE SALON 2026統括ディレクター等を務め、アートとテクノロジーを横断しながら新たな体験と空間の創造に取り組んでいる。

取材メモ

シンビジウムに託された父の想い

インタビューの締めくくりに、杉山さんは一鉢のシンビジウムを紹介してくださいました。事務所を開設した際、かつて花の輸入の仕事をされていたお父様から贈られたものだそうです。お父様は、杉山さんが園芸博のディレクターに就任したことを誰よりも喜び、専門書を贈っては、その活動を応援してくださっているといいます。

  • 取材メモの写真

    撮影:中川文作

花持ちがよく、寒さに強い蘭として知られ、「冬の贈り物」としても親しまれてきたシンビジウム。とはいえ、本来の開花期は春です。厳しい冬に最高の花を届けるためには、一度しっかりと「寒さ」を経験させなければなりません。需要が高まる冬に咲かせるため、かつてはまだ暑さの残る頃、生産者があえて株を標高の高い場所へ運び、早めに寒さに当てて開花を促す「山あげ」というひと手間をかけることもあったそうです。

過酷な環境を力に変え、長く、そして色鮮やかに咲き誇る

シンビジウムの、そんな揺るぎない芯の強さは、園芸博という大きな舞台に向けて、まさに今、心血を注いで準備に邁進する杉山さんの姿と、静かに重なって見えました。

  • 取材メモの写真

父から子へ、そして横浜から世界へ。命のバトンがつながれていく、新しい「明日の風景」の物語。その幕開けが、今から楽しみでなりません。
(取材・文 結城耀子 ゆうき ようこ)